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2022.8 法人

社会保険料節約スキームは危険?事前確定届出給与

1.役員報酬の支給方法

中小企業において、役員に対して報酬を支払う方法は、2種類あります。

1つは定期同額給与、毎月所定の時期に、同額を支給する方法です。

もう1つは事前確定届出給与、いわゆる賞与として支給する方法です。

 

2.事前確定届出給与の定義

事前確定届出給与とは、年度当初に各役員に対する賞与支給の金額と時期を株主総会で決議し、決議内容を税務署に届け出て、届け出た内容通りに賞与支給を行う方法のことです。

税務署への届出に使用するのが、『事前確定届出給与に関する届出書(以下『届出書』と記載)という書類です。この届出書には、誰に対して、いつ、いくらを支給するかを記載する必要があります。

この届出書は、中小企業の場合は、定時株主総会の日から1ヶ月以内に所轄の税務署に提出する必要があります。つまり、年度開始からおおむね3ヶ月以内に提出する必要があります。

 

3.社会保険料節約スキームとは

この事前確定届出給与を利用した社会保険料節約スキームとは、賞与に係る健康保険料・厚生年金保険料に上限が設けられていることを利用して、定期同額給与に該当する役員報酬月額の金額を極端に少なくし、多額の事前確定届出給与を支給する方法です。会社及び役員個人が負担する社会保険料の金額が少なくなることから、このスキームを採用している企業があります。

 

4.社会保険料節約スキームの問題点

3で解説した社会保険料節約スキームを利用することによるリスクが2点あります。

①役員退職金の適正金額が低額になる

役員退職金を支給した場合、その支給額が高額であると判定されると、高額と判断された部分については、役員退職金を支給した法人の法人税の計算上、損金の額に算入されません。高額であるかどうかが争点となるのは税務調査や税務訴訟の場面です。

そのような場面では、以下の算式により計算された金額を超える部分の支給額について高額と判定されることが多いようです。

退職する役員の退職時報酬月額×勤続期間×功績倍率

社会保険料節約スキームのように役員報酬月額が極端に低額であると、役員退職金の適正金額も低額となってしまいます。事前確定届出給与にて支給する金額も報酬月額に換算すべきではという考えもありますが、これまでの裁判にて事前確定届出給与による支給額は報酬月額には換算しないという考えが示されています。

②支給時期の前に役員が死亡したら受領できない

もし、届出書に記載した支給時期の前に役員が死亡した場合、死亡した役員の相続人は事前確定届出給与を受領することができません。事前確定届出給与の支給は支給日時点で役員であることが前提であるためです。

社会保険料節約スキームを活用することで社会保険料は少なくなったものの、受領できる金額が減ってしまったとなりかねません。安易にこのスキームを活用することはリスクが大きいと考えます。(三代川)