不動産購入による相続税節税ができなくなる?
1.国税当局が勝訴
令和4年4月19日、最高裁判所は相続税対策をめぐる訴訟において国税当局の勝訴としました。
今回は、どのような内容の裁判であったのか、国税当局の勝訴となった理由は何かについて解説します。
2.裁判の概要
当時90歳だった方(以下甲と表記)が、平成21年1月に杉並区の1棟マンション、同年12月に川崎市の1棟マンションを購入しました。購入原資の大部分は信託銀行からの借入金です。甲は平成24年6月に94歳で死亡しました。
もし、この借入・購入がなかった場合、甲を被相続人とする相続税の計算における課税価格(=相続財産-債務-葬式費用)は6億円を超えていたと推測されています。
甲の相続人は、借入・購入を反映させた内容の相続税申告書を札幌南税務署に提出しました。その申告書に記載された相続税の課税価格は約2,827万円で、基礎控除額を加味すると、相続税額は0円になるという内容でした。
3.裁判における争点
甲の相続人は、財産評価基本通達の定める方法により相続税申告書を作成しました。
財産評価基本通達では、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に計算した金額を相続財産の価額とするとされています。
土地の路線価も建物の固定資産税評価額も購入する際に支払った金額と比べると、大幅に低い金額となるケースが多く見受けられます。
信託銀行からの借入金を原資に不動産を購入し、この不動産を財産評価基本通達の定める方法で評価した結果、購入した土地建物の評価額よりも相続財産から差し引く債務の金額の方が大幅に大きくなり、相続税の課税価格が大幅に減少することとなりました。
国税当局は、本件については財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当であるから、不動産鑑定士による鑑定評価額を相続財産の金額とすべきと主張し、係争に至りました。鑑定評価額を相続財産の金額とすると、相続税の課税価格は8億9,000万近くとなります。
4.相続人が敗訴した理由
裁判の結果、冒頭で述べた通り、国税当局が勝訴し、納税者である相続人が敗訴となりました。相続人が敗訴した理由は、この借入・購入は、相続税の負担を軽減・免除させるものであることを知って実行したものであり、このようなケースにおいて財産評価基本通達の定める方法による評価を認めると、甲のような借入・購入をすることができない人との間に、租税負担の不均衡が生じると考えられるためです。
5.この判決から読み取れること
市場価格と財産評価基本通達の定める方法による評価額との乖離が大きくなりやすいタワーマンションについては、令和5年以降に評価方法の見直しを検討するという話も聞こえてきています。タワーマンション以外であっても、相続税の節税のみを目的とした不動産投資については、これまでのような効果を得ることは難しくなりそうです。(三代川)